舎長より

幼稚舎の教育が目指すもの

慶應義塾幼稚舎長 杉浦 重成

慶應義塾幼稚舎は、2024年に創立150周年を迎えました。幼稚舎の教育理念は、校歌の『幼稚舎の歌』に歌われている、子どもたちが「福澤先生の教えを身に行う」ということ、すなわち「独立自尊」を実践できる人材を育成することです。幼稚舎では、この教えを「子どもたちそれぞれが自分を磨きながら、互いの違いを認め合い、助け合えるようになること」としてとらえ、子どもたちが「共に思いやりの心を持って、自分のできることを一生懸命する」という形で、日常的に実行できるように努めています。すなわち、子どもたちを取り巻く現在の状況と将来の変化を見通しながら、自分の持つさまざまな可能性に気づかせ、「自分のできること」を引き出し、さらなる成長を促す場と機会を提供しています。

福澤諭吉は、「まず獣身を成して、のちに人心を養う」と唱えました。そこで、その教えにしたがって、幼稚舎では昔から身体能力を鍛えることに力を入れ、入学してから卒業するまでにたくさんの体育行事や活動を用意しています。

また、幼稚舎では6年間クラス替えがなく、さらに6年間を通じて同じ担任が、クラスの児童一人ひとりの成長を見守って細やかに対応しています。一方で、多くの教科(理科・音楽・絵画・造形・体育・舞踊・英語・情報・習字・総合)の授業を専門性の高い教員が担当し、それぞれの教科を通して様々な学びと成長を促すよう工夫をしています。

これまでも必要に応じて幼稚舎の教育環境や教育内容について検討を加えてきましたが、創立150周年を大きな契機として捉え、将来を見据えた上での校内環境整備やカリキュラムの見直し、ICTに対応した教育の拡充、クラスを分割した少人数制授業の実施など、今後も新たな学びの手立てを加えて行きます。これまでの歴史や伝統、福澤諭吉の教えを大切にしながらも、幼稚舎の教育に必要だと思われる新しいことを積極的に採り入れていくことを強く考えています。

また、多様な場と機会として用意している学内外の諸行事や活動への参加を通して、互いに競い合いながらそれぞれが違う能力と個性を持つ者として認め合い、助け合い、さらに互いを高め合っていく、そうした関係を作り出していくことで、子どもたちに「独立自尊」と共に「共生他尊」を身につけてもらおうと考えています。そして、その過程で自分で考える力を養い、自分で良いと思ったことは進んでするという、自分に対する誇りを持ってもらいたいと願っています。

福澤諭吉は1897年に刊行した『福翁百話』で「子供の品格を高く可し」と著述しています。自由の中にも規律があり、様々なことに熱意をもって取り組める子どもたちを育み、時には力を集め、寄せ合い、結束する大切さも説いてまいります。

子どもたちが自分を磨きながら、周りに思いやりの心をもって接することができるよう、また、そうした子どもたちを見守り、支え続けていくことができるよう教職員一同、日々努めてまいります。